『日本の巨匠-三山・東山魁夷、加山又造、平山郁夫の再評価』について
わたしども㈱WAO!は、創業以来50年間にわたって洋の東西を問わず、様々なアーチストの様々な作品を取り扱ってまいりました。
世界の大巨匠と言われるピカソ・ダリ・ミロ・シャガールなども健在でした。
その中でもバブルの真っ最中であった1980年代は、企業メセナが表面的に流行し、判らないくせに多くの企業が高い現代アートを買い漁り、また新興の日本中のギャラリーは“ヤマガタヒロミチ”に代表されるポップでハートウォーミングなアメリカ経由の作品を取り扱い、学生に保証人をつけてまで売りまくるといった狂気の時代を迎えていました。
そんな中、弊社はコツコツとヨーロッパの作家の版画作品と日本画の『三山』の木版画を販売していました。
当時は高山辰雄先生を入れて4山として、四半期毎に発表されるオリジナル木版画作品を30枚づつ仕入れていました。
価格は東山魁夷でも平山郁夫でも加山又造でも高山辰雄でも32万くらいでした。
しかしながら、人気図柄は即日売り切ってしまうのですが、不人気な絵柄のものが在庫となり、会社及びグループ全体の資金繰りを悪化させるため、本社の経理役員から小言を言われ続けたのを覚えております。
私はまだ20代後半、しかも一介の事業部次長です。
経営のケの字も判るハズもなく、山口県の防府と東京の四谷にあった本社の体制批判を繰り返していました。
今思えば、それも真っ赤に燃えていた若かりし日々の良き思い出ですが。
当時の国澤社長、本当にご迷惑をかけました。
生意気な私を怒りもせずに愛情をもって指導していただき今日があります。
ありがとうございました。
さて、話を元に戻しましょう。
それ以来、弊社は徹底的に東山魁夷、平山郁夫、加山又造の販売シフトを強化していきます。
当然、日本画のルーツや歴史、技法についても徹底的に研修を繰り返しました。
そこで解ったことは、日本画の芸術性とクオリティーが世界の頂点にあるという事。
天皇や将軍、公家や武家の為に描かれ続けてきたものが、明治以降、大きく変わっていったこと。
岡倉天心の薫陶の下、多くの日本画家が精神性の高さを追求し、人類史上最大の戦争に敗戦した後、画壇をけん引してきた巨星・横山大観とは違う、新しい三人の「山」が近代日本画壇に出現したこと。
それは神の意志とも言えるような偶然の産物?いや、時代がこの三人を選んだに違いない。
そう確信せざるを得ないほど、“三山”を調べ学習すればするほど、その山の高さに驚かされました。
世界が相手でも一歩も引かない。
日本人の感性と技術の高さ、日本の自然の美しさ、そして祈りの深さ、眼差しの優しさ、すべて作品を通して伝わってくるのです。
“綺麗”“美しい”だけでは言い表せない、“美”を突き抜けた何かが確かにそこにあるのです。
それが私たちの魂を揺さぶるのです。
大観の言った『気韻生動』、感動の瞬間です。
絶望と孤独の淵から、自然の風景の中に心の癒しを求め描かれた東山芸術、死と生の間で希望を見出そうとする祈りの平山芸術、冷徹なまでに孤高を貫き、日本古来の伝統美術の根幹である装飾性と粋を、持ち前の天才的な技術とセンスでデザインされた加山芸術。
この“三山”の活躍の原動力と芸術性の根っこは、暗雲の時代を駆け抜けた生命力であり、戦争がもたらした死、恐怖、不安、孤独、絶望、悲しみ、貧困、飢え等に対峙するための一縷の希望を見出したことにあります。
東山は戦車への突撃兵として中国へ出征する前に熊本の阿蘇山を観て、落涙するほどの感動をしました。
平山は、迫り来る被爆の後遺症と貧困、そして画家としての迷い、それらを振り切るために出かけた青森県の奥入瀬渓流で水の流れを観て、絶望を希望に変え、代表作制作のきっかけを掴みました。
ただ美しい絵は、世界中に数多有ります。
しかしながら、心が震え、胸に熱いものが込み上げてくるような絵画作品がどれだけあるでしょうか?
忘れちゃいけない!
私たち日本人が先達たちから受け継いできた感性のDNAの中には、儚いものに対する憐みや慈しみ、喜びに対しては感謝や有難味を感受する装置があるのです。
美しさの向こう側に、それらを感じた時『気韻生動』、全身に電気に打たれたように感動が巡ります。
このような画家たちが居たこと、そして激動と混乱の昭和という時代に感動の作品の数々を描き残してくれたこと。
唐招提寺に行けば会えます。
薬師寺に行けば会えます。
久遠寺や天龍寺に行けば会えます。
忘れなければ、生きている!
この昭和の日本画壇をけん引した“三山”の作品こそ、ただ美しいから感動するのではなく、『感動する根拠が実は私たちの心の中にこそある』ということを教えてくれます。
絵は、目で見るだけでは感動しない。
絵を観る者の心の中の何か(想いと記憶)と“照らし合わせた”時初めて発動するものである。
そういうことを教えてくれる“三山”を私は生涯忘れません。
戦後から数えても、高度成長、バブル崩壊、湾岸戦争、地震被災、大津波被災、大豪雨被災、コロナ流行などなど、私たち人類の想像を遥かに超えた出来事が、いつも私達を待ち受けています。
その中でも人間は、多くの困難や悲しみを、必死に希望を見出しながら懸命に生き抜いて行くでしょう。
その時に私たちの心を励ましたり、癒したり、慈しんでくれる、論してくれるのが彼らの偉大なる作品の数々なのです。
だからこそ、声を大にして言いたいのは、[『三山』を再々評価し、決して忘れてはならない!]ということです。
忘れなければ、彼らと彼らが描き残した偉大な美意識は、私たちの中に永久に生き続けるのです。
最後に、この『忘れなければ生きている!』という名言は、私が心から敬愛した長兄を亡くした時に、葬儀に居合わせた若い僧侶が泣いている私に言ってくれた言葉です。
今でもこの言葉は大切にしています。
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